「三角関数なんか社会に出たら使わない」と『ゴーマニズム宣言』

小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』の中で、成人式を迎える小林氏に彼の父親が「スーツを買ってやる」というシーンが出てくる。
当時大学生の小林氏は時代もあって成人式にスーツなんてダサいもの着ていかないからいらない、と言う。
それに対して彼の父親はこう言った。
「成人式にスーツ着て行かなくてもいい。だが同級生の中には高校出て立派に働いていてスーツで来るやつもいるだろう。
だから着て行かなくてもいいからスーツは買ってやる。
持っていて着ていかないのと、持っていなくて着ていかないのでは、心の余裕が違う」
これこそ大人の見識だと思う。

 

三角関数なんて社会に出たら使わないから、高校で全員に教える必要はない」と某氏が言った。
「漢文なんて使わない。社会人になって漢文使ったのは〝春はあけぼの〟くらい」と別の某氏がツイートして、〝春はあけぼの〟は古文で、そこで例出すなら〝春眠暁を覚えず〟だろ、と失笑を買った。

 

三角関数や漢文古文は社会人になって使わないかもしれない。
だが、知ってて使わないのと、知らないで使わないのでは、心の余裕も心の豊かさも違うのである。

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

 

「靴下はなぜ片っぽだけ無くなるか」とAI

「靴下はなぜ片っぽだけ無くなるか」という人間最大級の謎に対する答えをご存知だろうか。
名も知らぬ賢人がこうツイートした。
「両方無くなった場合は気づかないからだ」

1組の靴下にはこんな運命がある。
パターン1 末永く添い遂げる。ペアで活躍し続ける
パターン2 生き別れ。片っぽ無くなる
パターン3 ともに失踪。両方無くなる

1の場合、持ち主はあえて認識しない。
2の場合には気づいて「なぜ靴下は片っぽだけ無くなるのだろう」と嘆く。
3の場合も気づかない。
1〜3のシチュエーションのうち、2だけが記憶される。つまり認識におけるバイアスが理由なのである。

 

人間の認知にバイアスはつきものである。
有名な「トーストを落とすと必ずバターを塗った面が下になる」というマーフィーの法則も、バターを塗った面が上になって落ちたときは記憶に残らないだけなのだ。

 

人間は認知バイアスからなかなか自由にはなれない。認知バイアスから多少なりとも自由になるにはデータや統計による認識補正、仮説と検証作業などが必要になってくる。
現実を認識するにあたってのバイアスというのは人間の弱点の一つで、靴下一つとっても現実をありのままに認識することすらできないのだ。

 

ここでも人間に対するAIの優越性は明らかだ。AIは靴下の行方で思い煩うことはない。

現時点では、靴下を履くAIは開発されていないのだ。
それでは良い一日を。

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

パーキンソン病を知るために~船橋市・中條医院より

千葉県・船橋市「中條医院」院長の高橋宏和です。

脳や神経の病気を内科的に診る我々脳神経内科で年々患者さんが増えている病気の一つがパーキンソン病

パーキンソン病のことを知っていただくため、簡単にまとめてみます。

 

パーキンソン病ってどんな病気?

パーキンソン病には、「手足のふるえ」「筋肉のこわばり・かたさ」「動きの遅さ・小ささ」「バランスの崩しやすさ」という4つの大きな症状があります。

手足のふるえなどの症状は左右の差が目立つ場合が多いです。

 

動きの遅さ・小ささは具体的に言うと、顔の表情変化が乏しく能面のような顔つきになる、歩きが遅くなる、書く字の大きさが小さくなるなどです。

 

パーキンソン病の原因は?

脳の中で「ドーパミン」という物質が作りにくくなってしまうことが原因です。

年齢が上がるほどパーキンソン病になりやすいです。

 

パーキンソン病の患者さんってどれくらいいるの?

日本のパーキンソン病患者さんは10万人~15万人程度と言われています。

 

パーキンソン病の治療って?

脳の中で足りなくなった「ドーパミン」を飲み薬の形で補充するのが治療の中心です。

薬物治療とあわせて非常に有効なのが「運動療法」で、専門家の指導のもとリハビリテーションを行ったり、散歩などの日常生活での運動量を増やすことはとても大切です。

薬物治療によるコントロールがうまくいかなくなると、脳に電極を植え込む「脳深部刺激療法」や、腸にチューブを入れて持続的に薬を送り込む治療も検討されます。

iPS細胞を使う新しい治療法も研究開発が進んでいます。

パーキンソン病の治療は、研究がどんどん進んでいる分野で、実際に私(中條医院院長・高橋)が医者になった1999年から比べると、使える薬の種類が3倍以上に増えています。

パーキンソン病はたいへんな病気ではありますが、薬物治療は非常に有効ですし、治療の進歩が日進月歩で、「治療を受ける甲斐のある病気」とも言えます。

ご心配なかたは、お近くの「神経内科」や「脳神経内科」をご受診ください!

*もう少しパーキンソン病について知りたいかたは下記サイトなどがわかりやすいです。

パーキンソン病とはどんな病気? なぜパーキンソン病になるの?パーキンソン病の診断と治療って? 一般の方向け情報 日本メジフィジックス株式会社

 

難病情報センター | パーキンソン病(指定難病6)

パーキンソン病治療.com | 順天堂大学神経内科発信の情報サイト

 

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3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

 

 

12月28日金曜日、午前9時15分からラジオ日本「教えて!ラジオクリニック」にゲスト出演します!

明日12月28日金曜日、午前9時15分から、ラジオ日本「教えて!ラジオクリニック」にゲスト出演します!
テーマは「神経内科ってなに?」。

よろしければぜひお聞きください!

AM1422kHz ラジオ日本

団塊Jr.&ロスジェネが聴き直す爆風スランプ『45歳の地図』

2018年も残り1か月。今年、45歳となった。
頭の中にリフレインするのは爆風スランプ『45歳の地図』。


1973年、誕生。

1971年から1974年に生まれたぼくたち団塊Jr.は、日本の最後のボリュームゾーンだ。

堺屋太一氏が命名した「団塊の世代」を親に持つぼくらはまさに、「銀メッキのスプーン」を咥えて生まれてきた。

日本の国民総生産(GNP)が西ドイツを抜いて世界第2位となったのが1968年。
公害とかもあったけど、基本は国として上り調子で、ぼくが高校生の1989年には日本企業がアメリカのでっかいビルを買収したりしてたのだ。


そんないけいけどんどんな1989年に発表されたのが爆風スランプ『45歳の地図』。

尾崎豊の『17歳の地図』のパロディな題名のこの曲は、団塊Jr.でロスジェネな現45歳が今聞き直すと、時代の無邪気さにただただ胸が切なくなる。


〈わたしは45歳、会社に入って二十余年、黙々とわき目もふらず働いた〉

会社に入って二十余年!?会社もつぶれずに、一つの会社にずっといられたってこと?
てことは当然、正社員!非正規や派遣なんかじゃないって、特権階級じゃないか。

もくもくとわき目もふらずに働くだけで会社に居続けられたなんてなんて幸運なんだろう!コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も求められず、社内の公用語が英語になることもなく、ただただ黙々とわき目もふらずに働くだけで二十余年も会社に居続けられるなんて、本当になんて幸運なんだろう!!

 

〈(45才で)気がつきゃ息子も20歳、一流私立大学生。俺より金を喰らう〉

45歳で息子が二十歳!

未婚化晩婚化少子化、託児所つくろうとすれば住民に反対運動起こされるし奨学金ローン!

 

〈私は毎週日曜日の夜、自分で自分の靴を磨く

一家の主であるこの私がだ!

女房は私の足が臭いからと言って靴を磨くのを拒否したのだ!〉

「一家の主」!

自分の靴くらい自分で磨きなさいよ。

蛇足だが、1989年当時は、それが風刺や嘆きやギャグとして成立したということだ。「サザエさん」あたりを漁れば、夫が奥さんに靴下履かせてもらったり、仕事から帰ってきて部屋着の着物に着替えさせてもらったりする描写が拾えると思う。


〈わたしの青春を返せ〉〈(息子は)コンパコンパに明け暮れ〉と若き日のサンプラザ中野は歌うが、学業とバイトと就活に明け暮れざるを得ない現代大学生からすれば、青春はいらないから内定と安定をくれ、という感じなのだろう。


1989年。今から30年前。

確か当時は「農協ツアー」なんていって、小金を貯めた農協メンバーが団体で海外旅行に行くことを皮肉ったり、日本人はみんながみんな自分は中流階級だと思っているなんていって「一億総中流」と自虐したりしていたものだ。

今となっては「一億総中流」という言葉のなんと甘美なことか!

 

若き日のサンプラザ中野は『Runner』でこうも歌った。

<かげりのない少年の季節は過ぎ去っていく

風はいつも強く吹いている>

 

30年ぶりに爆風スランプのCDを引っ張り出した団塊Jr.でロスジェネなぼくは思う。

かげりまくった中年の季節もまた過ぎ去っていく。

向かい風は、いったいいつまで強く吹き続けるのだろうか。

いつかどこかにたどり着いたら、いったい誰になにを打ち明ければいいんだろう。

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

 

『都営バスの全運転手に脳のMRI検査を義務付け』がなぜバカバカしいか、かみ砕いて説明する。

2018年11月13日のdmenuニュースによれば、都営バスで全運転手に脳のMRI検査を義務付けるとのこと。これは非常にバカバカしくて歴史に残る愚策である。

 

www.hirokatz.jp

 

目的は、運転手の失神による事故を無くすためだという。常識的な医者の目から見て非常にバカバカしいので、あらためてかみ砕いて説明する。


まず、この件に関して誰かの利権がどうこうということについては言及しない。自由主義経済をドライブさせている大きな要素は個々のプレイヤーのインセンティブで、インセンティブと利権はグラデュエーションをもって地続きだからだ。
ただ、インセンティブ=私益の追求と公益、国益を一致させたりうまいこと併存させたりして「三方よし」の絵を描くのが事業家としての妙味であろうと思う。

 

さて、「都バスの全運転手に脳MRI」を施行することが天下の愚策である理由をかみくだいて述べる。

 

①意識消失の原因のうち、脳が原因の病気は限定的。その他は心臓の致死的不整脈睡眠時無呼吸症候群など、脳以外の病気が原因。日本循環器学会の『失神の診断・治療のガイドライン2012』によれば、失神の原因の5~37%が心臓が原因であり、当然これらは脳のMRIでは見つけられない(*1)

 

②脳が原因の病気のうち、脳MRIで事前に原因を発見できる病気はわずか。たとえば脳梗塞は、発症するまでは脳MRIは正常(脳の血管がとても狭いなどのリスクはある程度把握できる、がしかしいつ発症するかはわからない)。また、脳の病気であるてんかん発作も、現実的なリスクがあるかは脳MRIでは基本的にはわからない。


③脳MRIで症状が起こらないうちに事前に見つけられるわずかな主な病気は動脈瘤ぐらい(髄膜種などの、症状を呈す前の小さな脳腫瘍は偶然みつかることはある。あと脳梗塞脳出血のあととか)。一生破裂しないような小さい動脈瘤も入れれば、日本人の20人に一人は脳動脈瘤を持つ(*2)


④症状が出ない脳梗塞の跡が見つかることはあるだろうが、その場合は高血圧や高脂血症などの危険因子(脳梗塞のリスクを高める原因)をコントロールするくらい。症状を出さない脳梗塞のあとが見つかっても、原則として「血液をサラサラにする薬」は開始されない(*3)。「血液をサラサラにする薬」を開始することによって血が止まりにくくなるというマイナス面があるから。


⑤症状を出さない小さな動脈瘤が見つかっても、2018年時点の医学的見解として、原則として数mmの小さなものは様子見となる。小さな動脈瘤が破裂する確率は非常に低く、機械的に見つかった動脈瘤すべてを手術した場合には、手術によって脳を傷つけるリスクのほうが高くなるから。前述の秋田脳研サイトによれば、脳動脈瘤を持つ人が100人いたとして、一年以内に破裂する人の割合は0.85人(*2)。


⑥結果として都バスの全運転手X人に一人あたまY円の費用をかけて脳MRIを行ってた場合、X×5%(日本人の20人に1人は動脈瘤を持つから)の人に動脈瘤が見つかることが予想される。しかしながら前述のとおり、見つかった動脈瘤が手術に至る割合は非常に低い(*4)。


動脈瘤があろうとなかろうと、リスクを下げるために高血圧の管理を厳密に行う、という大方針は変わらない。要するに、年間X×Y円の費用をかけても「やること同じ」ならば、無駄にお金を使い、「あなた動脈瘤がありますよ」と言って無駄に不安を与えるだけである。


⑧補足だが、動脈瘤を発見された人がうつ傾向になってしまうというマイナス面があることは、脳ドックガイドラインにわざわざ記載されているくらい有名な話である(*5)。

 

ただ残念ながら医者がどんなに異を唱えても、この「都バス運転手全員に脳MRI」なる愚策がすぐには中止にならないだろう。一度決まった政策を中止するのは大変なのだ。
車は急に止まれない。政策も急に止まれない。車についての政策なら、なお急には止まらないだろう。やれやれ。

 

犬は吠えるがキャラバンは進む
だがキャラバンが進もうと、犬はやっぱり吠え続けることにしよう。カエルだけど。

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

 

*1)ガイドラインp5 本来なら、バスの事故の原因中、「運転手の失神」によるものの割合を言及しなければならない。同ガイドラインの「失神」と「意識障害・消失」を同一に論じてよいかも要検討。
*2)秋田県立脳血管研究センターサイトより。

2.未破裂脳動脈瘤(みはれつのうどうみゃくりゅう) | 脳神経外科で扱う病気と治療について | 脳・神経の病気について | 患者のみなさまへ 【秋田県立脳血管研究センター】

*3)脳ドックガイドライン2014 p.55等

http://jbds.jp/doc/guideline2014.pdf


*4)誰かXとYに代入する適切な数字をご存知でしたらご教示くださいませ。
*5)脳ドックガイドライン2014 p.71

 

 

 

医者の目から見て『都営バスの全運転手に脳のMRI検査を義務付け』がバカバカしい理由。

2018年11月13日朝のdmenuニュース(もとはNHK)によれば、東京都は都営バスの全運転手に3年に1度の脳MRI健診を義務づける、という。

都営バスの全運転手に脳のMRI検査義務づけ 東京都(NHKニュース&スポーツ)バスの運転手が病気や体調不良などで運転中…|dメニューニュース(NTTドコモ)

結論から言えば、バカバカしい。

費用対効果の面および倫理的な面から、明確に反対する。

 

倫理面では、健康状態というのは究極の個人情報である、という観点から、安易に被雇用者の同意なく雇用者が健康状態を把握できるような制度導入はすべきでないという立場で反対する。

何年かすると、「症状はないが、脳のMRIで小さい脳梗塞のあとがあるという理由で解雇された」という訴訟とか起こると思う。1万ペリカ賭けてもいい。

 

www.hirokatz.jp

 

 

費用対効果の話。

普通のMRI検査というのは、脳の形態を見るもので、機能を見るものではない。

意識障害など病気の多くは、脳や体の機能の(一時的な)異常で起こる。

意識消失の原因の一つの睡眠時無呼吸症候群などは、脳のMRI検査では発見できない。

症状がない人に脳のMRIの検査をやっても、ごくごく一部の病気しか見つけられない。また、MRI で仮に脳の形の異常が見つかっても症状なければ様子見である。

たとえば脳のMRIで見つけることのできる脳動脈瘤の場合。

脳ドックガイドライン2014年p.55ー読むとわかるとおり、なんにも症状がない脳の形の異常(小さい動脈瘤など)が見つかった場合でも、雑に言えば「様子みましょう」「血圧は下げときましょう」という方針なんですね(この方針はとても妥当)。

http://jbds.jp/doc/guideline2014.pdf#search='%E8%84%B3%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF+%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3'

小さい動脈瘤が破裂する危険性は非常に低いし、動脈瘤が小さい場合には手術によるリスクのほうが大きくなる。
だからMRIで異常があろうとなかろうと、血圧の管理というやることは一緒なわけで、なのにさもすごいことやるみたいに、莫大なお金と時間を費やしてMRI全員で撮ります!これで大丈夫です!とか言われちゃうと、もうね、ばかばかしくて…

また、症状のない人を集めて無差別に脳のMRI検査をやった場合、前述の脳ドックガイドライン2014年p.71にも書いてあるとおり、「あなたには小さな動脈瘤があります」と診断されると、そのことによって診断された患者さんがうつ状態になることがあったりして、無駄に患者さんに不安を与えるだけなんじゃないの、というのが脳ドック批判としてあります。
日本で脳ドックがはじまったのは1989年だそうですが、30年近くたってもほかの国に広まっていないというのは、無差別に健康診断的にたくさんの人に脳ドックやって、その結果、病気を減らすというメリットが少ないということではないかと思います。
誰かが自費でやるのは止めないけども…

 

非常に馬鹿げた話だなあ。よくこんな馬鹿な話が通ったものであるなあ。無駄遣いする予算があまってるなら保育所作ればいいのに、東京都。

 

もしMaster of Public Health、MPHをお持ちの先生がいたら、ぜひこの「都営バスの全運転手に脳MRIを義務付け」という政策に対し、異議申し立てないし検証し論文化していただけないでしょうか。

まがりなりにも先進国である我が国の首都で、費用対効果の面から、「反面教師」「失敗事例」として公衆衛生学の教科書に載る事例が現在進行形でスタートしてしまいます(泣)

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45